「検索順位は悪くないのに、アクセスが伸びない」「レポートを見るたび、なんとなくモヤッとする」
ここ数年、そんな感情を抱きながらダッシュボードを眺めているマーケターは多いはずです。
背景には、Googleの「AI Overview」や、ChatGPT・Perplexityのような生成AI検索の台頭があります。
ユーザーは、検索結果をクリックする前にAIの回答だけで疑問を解決するようになりつつあります。
今回取り上げるのは、SEOツールであるAhrefsが主催した国際カンファレンス「Ahrefs Evolve 2025」で語られた内容を整理したレポートです。
複数のセッションが共通して伝えていたメッセージは、とてもシンプルでした。
「これからのSEOは、検索順位の競争ではなく
インターネット上で“自社がどう語られているか”を最適化する戦いになる」
この記事では、その中身を日本のマーケター向けにかみ砕きながら、
AI時代にどんなSEO戦略をとるべきかを整理していきます。
Ahrefs Evolve 2025とは?AI×SEOの“いま”が集まった場
Ahrefs Evolve 2025は、アメリカ・サンディエゴで開催されたグローバルSEOカンファレンスです。
世界中のSEO担当者やコンテンツマーケター、エージェンシーが集まり、
・GoogleのAI Overviewや各種LLMによって「検索」がどう変わっているか
・AIに引用・推奨されるブランド・コンテンツの条件は何か
・「順位」ではなく「Discoverability(見つけられやすさ)」をどう設計するか
といったテーマが、2日間にわたって議論されました。
登壇者は、AhrefsのPatrick Stox氏や、Growth Memoで知られるKevin Indig氏など、
AI時代のSEOを語るうえで外せない面々です。
「順位は上がっているのに売上は横ばい」
「AI Overviewが出るクエリのCVは伸びたが、全体セッションは減った」
そんなリアルなグラフが次々と提示され、会場でもため息と頷きが混ざっていたそうです。
Patrick Stox:KPIは「流入数」から「ディスカバビリティ」へ
AhrefsのProduct Advisor & Technical SEOであるPatrick Stox氏のセッションは、
AI Overview時代の検索トラフィックをデータで“直視する”内容でした。
印象的だったのは、AI Overviewが表示されるクエリで起きていることです。
・自然検索のクリック率は大きく落ちている
・それでもコンバージョン数はむしろ増えているケースがある
つまり、AI Overviewの登場によって
「なんとなく検索したユーザー」はAI回答だけで離脱し、
「本気で検討しているユーザー」だけがサイトへ来るようになっている、という見方です。
「順位×流入=売上」という旧来の方程式は、崩れつつあります。
流入数だけを追いかけるKPI設計では、AI時代の現実を見誤るリスクが高いという話でした。
Patrick氏は、AI時代のSEOをこう言い換えます。
「自社サイトを最適化する(Optimize Your Site)」から
「インターネット上で自社がどう語られるかを最適化する
(Optimize How the Internet Talks About You)」へ。
この一言は、会場でも大きな反響があったそうです。
ブランドシグナルをどう増やすか:オンサイトからオフサイトへ
では、「どう語られているか」を変えるには、何をすれば良いのでしょうか。
Patrick氏は、AI Overviewにブランド名がどの程度登場するかをデータ分析し、
次のような「ブランドシグナル」の重要性を指摘しました。
・ブランド言及数(Brand Mentions)
・ブランド名を含むアンカーテキスト(例:SEOコンサルタントの◯◯)
・ブランド名での検索ボリューム(指名検索)
具体的には、次のようなアクションが挙げられています。
- 専門メディアや業界メディアで、「ブランド名+カテゴリ名」が同じ文脈で語られるようにする
- 被リンクを集めるだけでなく、「ブランド名+カテゴリ名」を含むアンカーを意識して獲得する
- SNSや動画で指名検索を増やす活動を続ける
ここで重要なのは、「言及の水増し」に走らないことです。
大量のサテライトサイトを作ったり、買収したメディアで自社を乱発したりすると、
短期的にはAIへの露出が増えるかもしれませんが、長期的には信頼を損ねます。
Patrick氏は、こうした“水増し的な言及”ではなく、
マーケティングとして正しく意味のある施策に予算とKPIを割り当てる重要性を強調していました。
Kevin Indig:LLMに引用される「Content Ikigai」とは
次に登壇したKevin Indig氏は、「What content works well in LLMs」というテーマで、
AIに引用されるコンテンツの条件を整理しました。
彼は、良いコンテンツの条件を「Content Ikigai」と呼び、4つの要素を挙げています。
- LLM(ChatGPTやPerplexityなど)に引用される
- 他サイトやインフルエンサーから引用される
- 自然検索枠でも上位に出る
- ユーザーに影響を与え、コンバージョンにつながる
ここでポイントになるのは、
「Googleで上位表示されている=LLMで引用されやすい」ではない、という事実です。note(ノート)
クレジットカード領域のデータでは、
Googleで上位に出ているドメインと、ChatGPTに多く引用されているブランドが、
ほとんど重なっていなかったという分析結果も紹介されました。
SEOとAEO(AI Engine Optimization)は9割は共通していても、
残り1割に「AI検索ならではの最適化」が存在する、という主張です。
AIに推奨・引用されるコンテンツの5条件
Kevin氏は、LLMに推奨・引用されるコンテンツの設計ポイントとして、
次の5つを挙げました。
- クオリティ(質と包括性)
テーマを深く・広くカバーしつつ、読みやすさも担保していること。
「分厚いけれど読める記事」がAIには好まれます。 - 更新性(鮮度)
公開・更新から3ヶ月未満の新しい記事ほど引用されやすい傾向があります。
放置コンテンツは、AI時代には埋もれやすくなります。 - 権威性①(事実の密度)
数字、固有名詞、日付、出典など、検証可能なファクトがしっかり詰まっていること。
LLMは「裏を取れる情報」が多い文章を評価します。 - 権威性②(ブランド人気)
そもそも人気のあるブランドは、LLM側も信頼しやすく、引用も増えやすいという相関が見られます。 - 権威性③(高品質リンク)
被リンクは依然として重要ですが、「量」よりも「質(関連性・権威性)」の方が
AI検索での露出とより強く相関している、という分析でした。
さらにKevin氏は、「AI Authority Stack」というフレームワークを紹介します。
・Proof(証拠):一次データや成功事例
・People(語り手):信頼できる専門家が語っているか
・Validation(第三者承認):レビューサイトやパートナーからの保証
・Presence(可視性):YouTubeやコミュニティなど、意思決定の場での存在感
・Utility(実用性):計算機やテンプレートなど、ユーザーが使えるツールの提供
「読まれるコンテンツ」から「引用されるコンテンツ」へ。
その差を埋めるのが、このAuthority Stackだといえます。
Carrie Rose:ブランド×カテゴリで“第一想起”を取りに行く
Carrie Rose氏のセッションは、
「では、ブランドシグナルを具体的にどう作るか」という実務寄りの話でした。
彼女が強調していたのは、「第一想起ブランド」になることの重要性です。
ユーザーの頭の中で、
「このカテゴリと言えば、あのブランドだよね」と真っ先に浮かぶ状態になると、
検索でも自然に有利になります。
そのために、次の4つのポイントが挙げられました。
- カテゴリLPに直接リンクを集める
トップページだけに被リンクを集中させず、商品一覧やカテゴリページへリンクを集める。 - 権威あるメディアでブランド名とカテゴリ名をセットで言及してもらう
「◯◯という英会話スクール」ではなく、「社会人向けオンライン英会話の◯◯」のような形です。 - UGC(ユーザー投稿)で自然な言及を増やす
X(旧Twitter)やコミュニティで、実体験に基づいた投稿を増やしていく。 - ポジティブなレビューを増やす
星の数よりも、具体的な体験が語られたレビューが、AIの“裏取り”として効いてきます。
また、AI時代の新しいKPIとして、
「AI Overview内での引用数」や「AIチャットにおけるブランドの出現頻度」など、
これまでのレポートには存在しなかった指標の重要性も語られていました。
Ahrefsの新機能でAI検索とSNSをまとめて可視化する
ここで気になるのが、「それをどう測るか?」という現場の悩みです。
Ahrefs自身も、この課題に対する解決策を次々とプロダクトとして出し始めています。
代表的なのが「Brand Radar」という新機能です。
Brand Radarでは、
・自社ブランドや競合ブランドが、LLM内でどれくらい言及されているか
・どんなクエリやAI回答の文脈でブランドが登場しているか
・競合と比較した「シェア・オブ・ボイス」
などを一覧で確認できます。
「Nike vs Adidas vs Puma」…といった形で、AI検索における“ブランドの取り合い”を定量的に見られるイメージです。
さらに2025年には、SNS運用を一括管理できる「Social Media Manager(ベータ)」もリリースされました。
・LinkedIn / X / Instagram / Facebookに投稿を予約・配信
・複数アカウントをAhrefs上で一元管理
・AI検索でのブランド露出と、SNS露出をセットで見ていく
といった使い方が想定されています。
「ブランドがどう語られているか」を変えていくには、
AI検索とSNS・PRをバラバラに見るのではなく、
まとめて設計していく必要があります。
Ahrefsの新機能群は、そのための“計測インフラ”になりつつあると言えます。
明日からできるGEO実践ステップ5つ
ここまで読むと、
「結局、何から手を付ければいいの?」と感じる方もいると思います。
最後に、AI時代のSEO=GEO(Generative Engine Optimization)に向けて、
明日から始められるステップを5つに整理します。
- AI OverviewとLLMで「いまの自社ポジション」を棚卸しする
主要キーワードでGoogle検索し、AI Overviewに何が出ているかを確認。
あわせて、ChatGPTやPerplexityに同じクエリを投げ、どのブランドが引用されているかをメモします。 - 「ブランド名+カテゴリ名」の型を決める
自社をどう表現してほしいかを、シンプルな一文で決めます。
例:「社会人専門オンライン英会話の◯◯」「AI時代のSEO研究メディアの◯◯」など。 - コンテンツを「Content Ikigai」の視点で棚卸しする
既存記事を見返し、
・ファクトの密度が薄い記事
・更新が止まっている記事
・網羅性は高いが読みづらい記事
をリストアップし、優先度の高いものからリライトします。 - PRとSNSのKPIを「名指し露出」に振り替える
「被リンク本数」「いいね数」だけでなく、
「ブランド名+カテゴリ名」で名指しされているかどうかを新しいKPIとして設定します。 - 小さくて良いので「Utility(実用性)」のあるコンテンツを用意する
・価格シミュレーター
・チェックリスト
・テンプレート
など、ユーザーが“手を動かせる”ツールを1つ作ってみます。
これ自体が、AIが引用したくなるコンテンツになります。
まとめ:SEOは終わらない、「見つけられる設計」へアップデートする
AI Overviewや生成AI検索の登場によって、
自然検索のトラフィックが減り、「SEOは終わった」と感じた人もいるかもしれません。
しかし、Ahrefs Evolve 2025で語られていたメッセージは、むしろ逆でした。
「SEOは終わらない。ただし、戦う場所が変わる」
これからの主戦場は、検索順位そのものではなく、
インターネット全体で「どう語られているか」を設計することです。
・ブランドシグナルをどう増やすか
・AIに引用されるコンテンツをどう設計するか
・PRやSNSを、AI検索から逆算してどう組み立てるか
こうした問いに向き合うチームが、
AI時代の検索でも“見つけられ続けるブランド”になっていくはずです。
AI時代のSEO/GEOに悩んだとき、
今回紹介したフレームワークを、ぜひ自社の戦略づくりの材料として活用してみてください。
出典:Ahrefs Evolve参加レポート/Ahrefs公式プロダクトブログ/Kevin Indig “What content works well in LLMs?”
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